蟻と私。

保育園だったか、小学校低学年だったか、
とにかく私は、よくひとりで遊んでた。

そもそも、誰かが一緒に遊んでくれるってことが、あんまりなかった。

でもそれが、特別さみしいって思ってたかというと、どうだったかな。

本を読むでもなく、勉強する気もまったくなくて、ただただ、外にいたかった。

家の玄関の外に出て、地面の砂をいじったり、道路の端っこにある、なんかほら、あれ、
下水管みたいなやつ? 隙間があいてるあの石のふたのすみっこ。

そこに溜まってる砂や泥を、指でちょいちょいって掘ったりしてた。

それが、当時の私の日課みたいなもんだった。

そんなある日、たしか夏だったと思う。

いつものように地面をいじってたら、目の前に蟻の行列があった。

黒くて小さい、でもなんだか忙しそうに動くやつら。

じーっと見てたら、蟻同士がぶつかる瞬間があって、
そのとき、あっ、なんか喋ってる!って思ったの。

なんていうか、

高い声で、きゃきゃむにゃむにゃ、

文字にはできない音。

でも確かに、“声”だった。

「ちょっとどいてー」かもしれないし、

「おつかれー」かもしれないし、

「そっち行ったらエサあるよ」って教えてたのかもしれない。

私の耳には、ちゃんと聞こえてた。

ほんとに聞こえてたんだよ。

幻覚?まぁ、、きっと、そうなんだけど

でも、あのときの私には、本当に聞こえた気がしてた。

その声がたのしくて、ずっと見てた。

しゃべる蟻たち。

言葉はわからないけど、何か大事なことを伝え合ってる感じがして、

「へぇー、カタチは違うけど、わたしと同じじゃん」って、

普通に納得したのを覚えてる。

今でもときどき思う。

あれは、私の想像だったのか。

それとも、本当にあの時だけ、私の耳が何かをキャッチしてたのか。

でもどっちでもいい。

あの瞬間、たしかに私は、

この世界は私が思ってるよりもずっと賑やかで、

ちゃんとみんながつながってるんだって感じたんだから。

私の耳が、感性がまたそのチャンネルに合えば、

たぶんまた、聞こえるんだろうな。

今日のイラスト 蟻とあそぶ

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