中3のある朝、私は学校に行った。
それだけでもう、ほぼ勇者級の偉業だった。なんせ、あの頃の私は不登校気味、勉強できない、陸上部もやめて、どこにも属してない人間だったから。
教室に入ってみたものの、空気がうすくて酸素が入ってこない。(今ならパニック発作って名前がつくんだろうけど、当時は「なんか無理」でしか説明できなかった)
「やっぱ帰ろう」と思い、荷物を抱えて下駄箱に向かう途中、階段で担任とバッタリ。
「帰ります」それだけ伝えてすれ違ったけど、その数秒後に思い直して
「ダメだ、頑張ってきたんじゃん。戻ろ。行こ。」と、勇気を振りしぼって教室に戻ると、なんと自分の席に担任が腕組みして座ってるじゃんか。すぐ悟ったわよね、これは説教タイムだなと。
しかもみんなの前でやるやつじゃん。やだわーーハズカシィーーって即座にUターンし、無言で教室をあとにした。
そしたらさ、
「待てぇーー!!あさーーーい!!」
突如、教室内から響く怒声。
えっ?って思ったらもう、血相変えて走ってきてんじゃん!
走る担任なんて初めて見た。
いつも人気ゼロ、表情ゼロ、タラタラスーツのあの人が、全力で追ってくるのよ。逆に逃げるわよそりゃ。
2クラス分の朝礼中の教室をぶち抜くというスパルタンコース。
私は…走った。陸上部だったころの血が騒いだ。
校内にサンダルのバタバタ音と私の上履き音がガチンコで響き渡った。
――そして捕まった。
アホよね私も。。律儀に下駄箱で靴履き替えてたら追いつかれたわよ苦笑
その時、何を言われたかは覚えてない。ただ、担任もぜぇぜぇしてて、大したこと言ってなかった気がする。私は「具合悪いんで帰ります」とだけ言って、そのまま帰宅した。
その日の夕方、担任から電話がかかってきた。
「追いかけて悪かった。」…え? 先生から謝罪?なんか、申し訳ないと思ったけど、あの、無表情で表現しない不器用な先生と、少しだけ距離が縮まった気がした。
クラスではその出来事が爆笑エピソードとして語り継がれ、「えり、あのときヤバかったよな!」って何年経ってもネタにされる。
でも、私にとってはただの逃亡劇じゃない。
あのときの「逃げる」も「戻る」も「謝る」も「走る」も全部、
14歳の私が「どうにかこの場所で生きよう」としていた証だったんだ。

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